2025年春夏メンズコレクションとリゾートコレクションの2本立てで披露されたJW アンダーソン(JW ANDERSON)は、驚くべきクリエイティビティとアイデアで溢れていた。特に目を引いたのは、当然“圧倒的に着やすい服”ではなかったが、むしろそれが今回の狙いと言えそうだ。デザイナーのジョナサン・アンダーソンは、今回のラインナップについて「非合理な服」と表現し、「ぼんやりした感覚が好きなので、例えば宇宙空間を漂うような浮遊感を表現したかった」と話した。
抽象化された手触りとフォルム
“見かけの非合理”さをのぞけば、特定の特徴や筋書きはない。今回のコレクションで一貫して言えるのは、隣接するいくつもの思考をコラージュし、“常識の範疇を超えて感性を刺激するクリエイティブ”だろう。ファーストルックの色彩豊かなシルクのライナージャケットや、円形を型取って立体的に裾を絞ったビローズポケットのデニムジレは、近未来的なフォルムとなって従来のイメージを覆した。
「時には、動きやスポンジのような触感が重要なのです」。このアンダーソンの言葉を体現したピースも次々と登場した。コケティッシュな裏返しニットのボンバージャケットや、カラフルなプックピローがサイドに結合したポップなセーター、淡い色彩のスーパーサイズのレザーブラウスは、どことなくヘンリー・ムーア的で、抽象化された人間工学を想起させた。
“ジャンルレス”に入り乱れるクリエイティブ
あえて例えるならば、“18世紀の冒険家”。レイズドされたストームフラットとパッチポケットが特徴的なドライザボーンジャケットや、ふくらはぎ部分でカフスが掛かるフルレッグ・ショーツ。ブルーのジャケットと、三銃士のように紐をラフに結ったオールドミリタリースタイルのブーツにインされたパンツのルックがラストを飾った。
ジャンルレスに入り乱れた予測不可能なクリエイティブは、英国建築をモチーフに編み上げられたニットカーディガンやニットドレスにも表れている。ブルジョワたちの別宅を思わせる建物が描かれたクリーム色のニットにあしらわれた鳥は奇を衒うようにも思えるが、アーム部分の木のモチーフとのストーリー性を演出する要にも思える。また、オーバーサイズのVネックニットはレースを固定するためレジンでコーティングされており、独特な光沢感をあたえ異彩を放った。
ギネスの革新がもたらすインスピレーション
コレクションの中で一線を画していたのは、ギネスのヴィンテージ広告風のスウェットやニットだろう。これについて、北アイルランド出身でギネスのファンだと公言するアンダーソンは、ジョナサン・グレイザーが手がけた1999年のサーフ広告からヴィンテージ広告に至るまで、これまでのギネスによるブランディングの歴史への敬愛だと話した。
表現の実験
一方、奇妙な美しさで魅了したのは、萎んだ風船のようなシルクタグをふんだんに備えたシャツやジャケットなどの独創的なピースたちだ。その他にも、オフィスウェアにポップアップテントのような鮮やかなニットスリップを合わせた斬新なルックも登場。
アンダーソンは最近、バルセロナのプリマヴェーラ・サウンドを訪れたと話し、「世の中の人たちがファッションや自己表現で、どれだけ実験的になっているかを観察するのが興味深い。変な言い方をすれば、今の“モード界”はストリートよりも控えめになっている気もする。カルチャーやファッションにおける若い世代の進歩は計り知れないから。それに比べれば、このショーだってマイルドなのかも」
昨今のトレンドや美的感覚をフォローするのではなく、未来のテイストを直感で察知するような、今季のJW アンダーソンは、時空を超えてその先へと飛び出すための“社会実験”のようなコレクションであった。
※JW アンダーソンの2025年春夏コレクションをすべて見る。
Photos: Gorunway.com Text: Luke Leitch Adaptation: Mei Fujita Editor: Saori Yoshida
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